俳優の山本耕史さんがテレビに出ていて、20代の頃に一人焼肉にハマったと言っていた。
へー。一人焼肉の人ってもしかしてわりといるのかな?
・・・俺以外に。
俺は今でも一人焼肉の現役ランナーであり、日本代表だ。
営業力で会社役員にまで上り詰めながらも、プライベートでは空前絶後のぼっち力を発揮する俺。
あらゆるお客さんの意味不明な会話をまじっすかー!そっすねー!で切り抜けるコミュ力を有しながらも、普段は漬物石よりも物静か。それが俺。
そんな俺が誰かと焼肉など出来ようか、いや出来まいて!
焼肉は家族みんなで行くものという考えが世間では常識なのかもしれない。
バーベキューや家族の外食。
もはや定番である。
お互いの肉を焼きあい、焼肉のタレを頭からつま先まで全身に塗りたくって叫びながら円になり、血の滴るカルビを囲む様はもはや日本の休日では当たり前の光景となっている。
しかし、俺からすると誰かと焼肉なんて最も愚かと言わざるを得ない。
愚行の極みである。
念仏を唱える虚無僧に無言でついて行くのと同じくらい無意味だ。
焼肉はひとりで食べるべきなんだ。
聞いてくれ。理由はいくつかある。
まず、焼肉はデートに向かない。
女性はデートに備えておしゃれな服を着てくるのに、せっかくの可愛い服が焼肉臭くなるのを恐れる傾向にある。
OLたちが毎日の昼休みに、まるでバッタみたいにファミマのサラダしか食べない生活を続けていることはご存知だろうか。
あれはダイエットのためもあるが、可愛いくておしゃれなブランドの服を買うための節約でもあるのだ。
彼女たちは本来がっつり食べたい昼食を我慢して、ファミマのしょーもないパッサパサの野菜を食べて節約をしているわけだから、彼女たちのきらびやかな服はファミマのキャベツの結晶とも言える。
そんなキャベツの塊のようなブランド服が焼肉臭くなるなんて、彼女たちからすれば耐え難い苦痛だろう。
俺にはわかる。
OLの化身と言われている俺には彼女たちの気持ちが痛いほどにわかる。
ただし、肉そのものは好きだったりするので、無事にキスもセックスも終わり、もはや身も心もパートナーとなった暁には思う存分二人で焼肉デートするがよろしい。
それに設備を工夫して匂いを抑えた店もあるしね。
次に焼肉は接待に向かない。
相手にもよるんだけど、立ち振る舞いが結構難しい。
相手の肉を焼いてあげると恐縮するキャラの人もいるのだ。
いやいやいやいや!わたしが焼きますよ!
いやいや!いやいやのいやいや!ここはわたしに焼かせてください。
いやいやいやいや!やいのやいのいやいや!・・・みたいな会話が永遠と続く。いやいや地獄である。
かと言って、じゃあ、そこまで言うならお前焼けよと、お客さんに俺の分も焼かせるなんて論外だし。
お客さんもえ?まじで?って顔するし。それなら自分で焼くとか言うなよ腰抜けがって思うけど、とにかくさじ加減が難しい。真剣を握った武士同士の立会いに似ている。
結局各々で焼くのが一番なんだけど、その結論をどのタイミングで言い出すかが難しいのだ。
あと、お腹の空き具合を見ながら焼いてあげないと、もういらねーよって思われてる可能性もある。
相手のさらにひょいひょい焼けた肉を網から転送させていくわけだけど、途中で相手の皿にたまり始める。相手の肉償却能力をこちらの生産能力が上回るとこういった現象がおきる。そうなると肉を無駄にしてしまい、とても気まずい雰囲気となる。
客は「発展途上国では、売春でエイズに感染することは怖くないんや。それよりも明日食べるものが無いことが怖いんや。それなのにお前は肉を無駄に焼きやがって・・・」という目で見られてしまう。
そんなわけで焼肉自体は好きというお客さんは多いんだけど、接待に使うにはわりと難易度が高いように思う。
何よりめっちゃ気を配りながら食べることになるので全然美味しくない。
そして家族で行くと肉を奪われる。
これ。
娘とか奥さんとか。
やっぱり焼いてあげるやん?
すると自分のぶんがぺろっとなくなる。
今まで手塩にかけて網の上で育ててきた肉を、やはり手塩にかけて育ててきた実の娘に奪われてしまうのである。
肉よ。美味しくなれ。脂を出せ。焦げ目をつけろ。そうだ!いいぞ!
と、大切に焼いた肉をあろうことか娘なんぞに奪われるわけだ。
娘が高熱をだした時はたとえ真夜中でも夜間病院へ走り、水泳で進級した時は抱きしめて喜び、ひらがなを覚えるまでたとえ仕事で疲れていても何時間でも付き合う・・・そんな風に育てた娘が、俺の手塩にかけた肉を奪うなんて許せるだろうか?
うん、許せるよね。
俺は自分の食べたい肉を食べたい量でコントロールしてるのに、ちょっと頂戴とか言われると怒りで全身が震えてくる。やめて。
俺は少しくらいのことでは怒ったりしない器の大きな人間だが、焼いている肉を横から奪われるのだけは我慢ならぬ。
メロスより激怒する。
セリヌンティウスもひくほど激怒する。
もちろんそれは心の中で。
娘がじーっとこっちの皿を見ていたらあげるしかないやん?
その結果、自分のぶんも追加で頼むとめっちゃ予算オーバーする。
そんなわけで俺は焼肉はやっぱり一人がいいなと思うわけである。
一人焼肉にはスマホと文庫本が欠かせない。
大抵カウンターのある焼肉屋に行き、席に座る。
冷えた生ビールとキムチの盛り合わせをさっそくオーダー。
ビールをちびちびやりながら、キムチをポリポリ。肉が運ばれてくるまでの間、ツイッターを覗いたり、文庫本を読んだり。美人の店員さんを目で追ったり。
肉だって、イチボやハネシタを注文する。なんせ一人なのだから、高級部位を頼んだとしても、料金はそれほど高くはならない。
お客さんも家族も恋人にも気を使うことなく、自分のペースでダラダラと焼く。そして美人の店員さんをチラリと見る。目が合うとうつむく。
ゆっくり焼いても家族からイライラされたり、とられたりすることもない。
一枚だけ焼いて、文庫本を読み、ビールを飲んで、焼きあがった肉をサンチュでローリング。
素晴らしい。ダラダラとゆっくり食べる時間は素晴らしい。一人になりたい。もうひとりで暮らしたい。住宅ローンなんて払いたくない。うう・・・。
お酒が弱い俺は接待の時は頑張って飲む。お客さんが注文しやすいように、遠慮せずに済むようにと。
しかし、一人焼肉なら、そんな気を使わずともゆっくりと飲めばいいのである。誰もいない夜中に道路の真ん中をどうどうと歩く時の気持ちに似ている。あの無双感。
焼き鳥だと店員さんが焼いて持ってくる。これはダメだ。結局店員に主導権を握られている。あくまで時間を支配しているのは自分でありたい。俺は焼き鳥屋の支配下におさまるつもりはない。好きだけど!焼き鳥もすっげー!好きだけど。
ちなみに一人焼肉を楽しむには、あまり安い店はよろしくない。店員からのプレッシャーが半端無いからである。高級店である必要はないが、回転命の激安店は避けるべきだろう。
ところでホルモンて注文する?
俺はしない。
俺は酒飲みじゃないんで、ホルモン系はまったく興味ない。
だから一人焼肉の時は注文しない。
誰かと行くと大体そいつがホルモン注文してくる。
そのくせ全部食べようとしないのだ。
53万さんも食べてーとか言ってくる。
自分で頼んだくせに!いらねーよ!牛のうんこの通り道を食べて何が嬉しいんだ!ばか!全部ひとりで処理せーよ!
ホルモンには往々にしてこういうトラブルを引き起こす要素があるように思える。
ただし、モツ鍋は最高にうまいよな。
あなたがホルモン好きでも嫌いでも一人焼肉なら関係ない。好きなら注文すればいいし、そうでないならカルビとロースとハラミをひたすら食べればいいわけだ。
そんなわけで、他人の目が気にならない人はぜひ一人焼肉をオススメする。
ただし美女と行くならば、俺は一人焼肉やめて美女と行くね。
焼肉はデートには向いてないけど、美女が焼肉食べたいと言ってきたら、ためらうことなく行くね。
ま、いろいろ言ったけど俺は焼肉より、女の子の方が好きって話です。
誰か俺と一人焼肉いきませんか?美女なら奢りますよ。
おわり